東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7525号 判決 1981年2月24日
原告 天田歌子
<ほか三名>
右原告四名訴訟代理人弁護士 木村敢
同 西岡文博
同 高橋諒
同 木村峻郎
被告 国
右代表者法務大臣 奥野誠亮
右指定代理人訟務部付 小野拓美
<ほか三名>
被告 白十字株式会社
<ほか二名>
右被告三名代表者 代表取締役 天田彦正
右被告三名訴訟代理人弁護士 榎本精一
同 桜井陽一
主文
一 被告白十字株式会社は豊島税務署徴収職員に対し、別紙差押株券目録記載(1)の株券を原告天田富夫に、同(2)の株券を同天田歌子に、同(3)の株券を同天田寛に、同(4)の株券を同三上昭子にそれぞれ引き渡すべきことを申し出よ。
二 被告白十字株式会社は原告天田富夫に対し、別紙静岡白十字株式会社発行株券目録記載の株券を引き渡せ。
三 原告らのその余の訴えをいずれも却下する。
四 訴訟費用は、原告らと被告白十字株式会社の間においては、原告らに生じた費用の二分の一を被告白十字株式会社の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らとその余の被告との間においては全部原告らの負担とする。
五 この判決は、主文第二項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告国は、原告らが亡天田福之助遺産に対する滞納相続税(本税、加算税、延滞税)をそれぞれ完済したときは、豊島税務署徴収職員が昭和五三年四月三日東京都豊島区高田二丁目三番三号白十字株式会社においてなした別紙差押株券目録記載の各株券に対する各差押えを解除したうえ、同(1)の株券を原告天田富夫に、同(2)の株券を原告天田歌子に、同(3)の株券を原告天田寛に、同(4)の株券を原告三上昭子にそれぞれ引き渡せ。
2 被告白十字株式会社は、豊島税務署徴収職員に対し、前項の各株券を原告らにそれぞれ引き渡すべきことを申し出よ。
3 (2に対する予備的請求)
被告白十字株式会社は、1の差押えが各解除されたときは、国に対する1の各株券の引渡請求権を原告らにそれぞれ譲渡せよ。
4 被告四名は別紙差押株券目録記載(1)の株券が原告天田富夫の、同(2)の株券が同天田歌子の、同(3)の株券が同天田寛の、同(4)の株券が同三上昭子の各所有であることを確認する。
5 被告白十字株式会社は原告天田富夫に対し、別紙静岡白十字株式会社株券目録記載の株券を引き渡せ。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 1、5、6につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(一) 被告国
1 (本案前の答弁)
原告らの訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
2 (本案の答弁)
原告らの1の請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
(二) 被告白十字株式会社、同白十字販売株式会社、同静岡白十字株式会社
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 被告国に対する請求原因
1 原告天田富夫は別紙差押株券目録記載1の株券を、同天田歌子は同2の株券を、同天田寛は同3の株券を、同三上昭子は同4の株券を所有している(以下、右差押各株券を本件株券という)。
2 被告国の豊島税務署担当職員は、訴外亡天田福之助遺産に対する原告らの相続税(本税、加算税、延滞税)滞納を理由として、昭和五三年四月三日本件株券を占有していた被告白十字株式会社において本件株券の差押え(以下本件差押えという。)をし、本件株券の占有を取得した。
3 被告国は原告らが右滞納相続税を完済しても本件株券を原告らに引き渡さないとの態度を明確にしているので、あらかじめ本請求をなす必要がある。
4 被告白十字株式会社は、本件差押時に本件株券を占有していたので、原告らの右滞納相続税完済により本件差押えが解除されたときは国税徴収法八〇条四項により国に対し本件株券の引渡し請求権を取得するが、本件差押が解除されても本件株券の受領をせず、あるいは原告らに本件株券を引き渡さないおそれがあり、原告らの被告白十字株式会社に対する本件株券の返還請求権を保全する必要がある。
5 よって原告らは所有権に基づき、または、被告白十字株式会社に代位して、被告国に対して請求の趣旨1のとおり本件株券の引き渡しを求める。
二 被告白十字株式会社に対する請求原因
1 被告国に対する請求原因1、2を引用
2 原告天田富夫は別紙静岡白十字株券目録記載の株券(以下静岡白十字株券という。)を所有しており、被告白十字株式会社は右株券を占有している。
3 よって原告らは本件株券及び原告天田富夫の静岡白十字株券のそれぞれ所有権に基いて、被告白十字株式会社に対して、本件株券について国税徴収法八〇条四項により請求の趣旨2の(予備的に同3の)意思の陳述及び静岡白十字株券の引き渡しを求める。
三 被告ら四名に対する確認請求の原因
1 被告国に対する請求の原因1を引用
2 よって原告らは本件株券の所有権に基づき、被告らに対し請求の趣旨4のとおり所有権の確認を求める。
四~六《省略》
七 被告白十字株式会社の抗弁
1 被告白十字株式会社は訴外亡天田鄰八が明治二九年に天田工場を設立し衛生材料の製造を始め、昭和二年に至り株式会社純正舎と改組し、同四〇年白十字株式会社と商号を変更したもの、被告白十字販売株式会社は右天田鄰八によって昭和二一年に白十字株式会社(当時純正舎)の製品の販売を主たる目的として設立され、同四二年に白十字販売株式会社と商号を変更したものである。また、被告静岡白十字株式会社は昭和四五年に天田一族によってカンナミ衛材株式会社として設立され、同四八年商号を静岡白十字株式会社と変更して今日に至っているものである。
2 右天田鄰八を初めとして、被告三社の現代表取締役である天田彦正、前記亡天田福之助等の天田一族は、株式の散逸を防ぐために、純正舎(現在は被告白十字株式会社)及び将来設立する会社の株券で天田一族の引き受けるものは全て純正舎の金庫に保管することを約し、今日まで右約束を守り続けてきたものである。
八 抗弁に対する認否
抗弁2の事実は否認する。なおかような約束(保管申し合わせ)があったとしても、商法二二六条の二の法意等に照らして抗弁は主張自体失当である。
九 《省略》
第三証拠《省略》
理由
一 別紙差押株券目録記載(1)の株券及び別紙静岡白十字株式会社発行株券目録記載の株券が原告天田富夫の、別紙差押株券目録記載(2)の株券が同天田歌子の、同(3)の株券が同天田寛の、同(4)の株券が同三上昭子の各所有に属することは当事者間に争いがない。また、被告白十字株式会社が昭和五三年四月三日当時別紙差押株券目録記載の本件株券を占有していたこと、右同社が現在静岡白十字株券を占有していること、被告国の豊島税務署担当職員が訴外亡天田福之助の遺産に対する原告らの相続税(本税、加算税、延滞税)滞納を理由として、昭和五三年四月三日に本件株券を差し押え、その占有を取得したことはいずれも当事者間に争いがない。
二 被告国に対する引渡し請求について
原告らの被告国に対する本件株券の引渡し請求は、所有権に基づくものにせよ、あるいは被告白十字株式会社に代位して請求するものにせよ、いずれも将来の給付を求める訴えである。そこでこの訴えが適法とされるためには、予めその請求をなす必要があることがその要件であるのでこの点について考察する。被告国が原告らが前記の滞納税を完済してもそれだけでは本件株券を原告らに引き渡さない態度を明確にしていることは当事者間に争いがない。しかし前記認定のとおり本件株券が差し押えられた当時その占有が被告白十字株式会社にあったのであるから、国の右態度は国税徴収法八〇条四項但し書の規定に照らして正当であるといわなければならない。この点に関し、「国税徴収法の右規定は、国の免責に関する規定であって、本件のように所有者が原告らであることが明白であり、かつ、被告白十字株式会社に占有権限がないことも明白である場合には適用をみないものである」との原告らの主張は、差押の時に滞納者以外の第三者が占有していたものについては、差押解除時にその第三者がそのものを占有しうる権限を有しているか否かを問わずその第三者に引き渡さなければならないという義務規定の趣旨をも有している前記規定の解釈を誤まったものであるといわなければならない。さらに本件弁論の全趣旨によれば、被告国は、原告らが滞納相続税を完納したときは、被告白十字株式会社から、原告に引き渡すべき旨の申し出が国に対してあれば、原告らに本件株券を引き渡す意思であることを認めることができる。(なお、右引き渡すべき旨の申し出をせよとの原告らの被告白十字株式会社に対する請求が認められることは後述のとおりである。)
右によれば、本件において原告らが被告国に対して条件付将来の給付の訴えを予めする必要性を認めることはできず、よってその余の点を判断するまでもなく、被告国に対する引渡し請求は不適法である。
三 被告ら四名に対する所有権確認請求について
被告ら四名が、原告らの本件株券の所有権を認めていることは前述のとおりであるので、原告らに右の確認の利益がないことは明らかであり原告らの右確認請求は不適法である。
四 被告白十字株式会社に対するその余の請求について
請求原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。そこで被告白十字株式会社の抗弁について判断する。
亡天田鄰八ほかの天田一族が被告白十字株式会社(当時の名称は純正舎)及び天田一族が将来設立する会社の株券で天田一族の引き受けるものは全て被告白十字株式会社の金庫に保管するとの申し合わせをかりにしたとしても、そのような申し合わせは株主の株券の占有を禁止し、その結果(株式の譲渡には株券の交付が必要であるから)株主の株式の処分を不可能にさせるものであり、株式の譲渡性について定めた商法二〇四条、株券の不発行・寄託制度について定めた同法二二六条の二等の法意に照らして、前記申し合わせが株券の現所有者である原告らを拘束する効力を有しないことは明らかである。よって抗弁事実の有無を判断するまでもなく被告白十字株式会社が主張する抗弁は失当である。
五 結論
以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告白十字株式会社に対して、本件差押株券を各原告らにそれぞれ引き渡すべきことを豊島税務署徴収職員に対して申し出よと求めること並びに同被告に対して別紙静岡白十字株券目録記載の株券を原告天田富夫に引き渡しを求める限度において理由があるから認容し、その余は不適法であるからその訴えを却下することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条及び九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅原雄二)
<以下省略>